日本酒好きを中心に人気を集めている、山廃(読み方・やまはい)仕込みの日本酒。しかし、山廃仕込みがどんな日本酒なのか、どんな味わいなのか、詳しく知らないという方もいらっしゃるでしょう。
こちらの記事では、「山廃って何?」という方に向けて、山廃仕込みの日本酒について徹底解説!その定義や、造り方、味わいや風味について解説します。
<山廃の成り立ち>
分岐条件 | 種類 | 乳酸菌の種類 | 山卸 |
酒母作り | 速醸造り(通常の日本酒) | 人工 | - |
山廃仕込み | 天然 | - | |
生酛造り | 天然 | ○ |
山廃(やまはい)仕込みとは?
山廃仕込みは、酒母(しゅぼ)作りの手法の一種。「生酛系酒母」から派生した「山廃系酒母」によって造られるお酒を指します。
酒母とは、酵母を培養し日本酒の土台となる液体です。「速醸系(そくじょうけい)酒母」、「生酛系(きもとけい)酒母」、生酛系酒母から派生した「山廃系酒母」の3つに分けられます。
山廃系酒母は、生酛系酒母と同じく、天然の乳酸菌を一から育てて酵母を培養します。手作業で米をすりつぶす山卸(やまおろし)という工程を省略して作られることが、生酛造りとの大きな違いです。「山卸を廃止する」という意味合いで、これが名前の由来・語源になっています。
この山卸の工程は、非常に手間暇がかかり、蔵人(くらびと)にとって負担のかかる重労働でした。しかし、1909年に国立醸造研究所の実験によって、乳酸を増やすために行っていた山卸という工程をせずとも、米麹の持つ酵素の力が山卸と同じ働きをするということが分かり、山廃が登場したのです。
また、「速醸系酒母」は、1910年に新しく確立された現在主流の製法。速醸系酒母は人工の乳酸を使って作ることから、生酛系酒母・山廃系酒母で起こる雑菌の侵入、繁殖による腐造のリスクがなく、酒母作りにかかる時間も大幅に短縮できます。速醸系酒母の登場で、日本酒製造にかかる手間や時間を大幅に削減できるようになりました。
酒母作りなど、日本酒の造り方については以下のページで詳しく解説しています。
[日本酒 作り方]
山廃(やまはい)仕込みの日本酒の特徴
速醸系酒母の登場によって、日本酒造りに革命が起きました。しかし、それでもなお、生酛造りや山廃仕込みなどの伝統的な製法は失われていません。
多くの人々を魅了する山廃仕込みの日本酒とは、一体どんな味わいなのでしょうか?
深い旨味・酸味がある味わい
生酛系酒母の派生である山廃系酒母は、自然界に生息する乳酸菌をうまく取り込み、一から乳酸を発酵させて育てているため、複雑で濃厚な味わいになりやすいといわれています。
お米の濃厚なコクと深い旨味、穏やかな酸味を楽しめる山廃仕込みは、冷酒よりも熱燗で飲むのがおすすめです。漂う湯気からはお米のまろやかな香りを感じ、しっかりとしたボディのある味わいが口の中に広がります。
味の濃いビーフシチューや、牡蠣をはじめとする貝類の料理と一緒に飲めば、さらに引き立ったお米の芳醇な香り、濃厚な味わいを楽しめます。
希少価値の高いお酒
山卸の工程を行っていないとはいえ、速醸系のお酒と比べ、山廃仕込みは手間暇をかけて造られている日本酒です。速醸系の酒母が完成するのが2週間程度のところ、山廃仕込みは倍の1ヶ月程度かかります。
時間も手間もかかる方法であることから、世の中の日本酒における速醸系酒母・山廃系酒母・生酛系酒母の割合は「90:9:1」ともいわれており、その希少さが伺えるでしょう。
一方で、速醸系の日本酒が主流となった現代も、数少ない蔵元が希少性の高い山廃仕込みを造り続けています。山廃仕込みの日本酒にしか出せないお米の濃厚なコクとパンチの効いた旨味が、多くのファンを魅了しているのです。
生酛造りとの違い
山廃仕込みと生酛造りの違いは、山卸の工程を行う・行わないという一点のみです。
山卸は蔵人にとって重労働であり、これを省略せず造られる生酛造りは、山廃仕込みよりもさらに希少価値が高く、市場への流通が少なくなっています。
お米の濃厚なコクと深い旨味、穏やかな酸味を感じる味わいは山廃仕込みと同じですが、生酛造りの方が若干尖りのある味わいとなる傾向にあります。
生酛造りについては、以下のページで詳しく解説しています。
[生酛ってどんな日本酒?]
山廃(やまはい)仕込みのお酒を味わってみよう!
お米の濃厚な旨味とコクを楽しめる、山廃仕込みの日本酒。
今まで飲んだことがない方も、蔵人によって手間暇かけて造られた山廃仕込みの日本酒を、この機会に味わってみてはいかがでしょうか!