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「生酛(きもと)造り」とはどのような日本酒?特徴や味わいを解説!

日本酒
製法特集
味わい特集
posted on 2022-10-20
updated on 2022-12-19

「生酛(きもと)造り」という言葉を聞いたことはあるでしょうか?


生酛造りは、江戸時代から続く伝統的な酒造りの方法です。現代における通常の製法に比べて、大幅に手間と時間がかかる製法だといわれています。


こちらの記事では、生酛造りの意味や概要、特徴についてわかりやすく説明します。


<生酛の成り立ち>

分岐条件種類乳酸菌の種類山卸
酒母作り速醸造り(通常の日本酒)人工-
山廃仕込み天然-
生酛造り天然

生酛(きもと)造りとは?

生酛造りとは、「天然の乳酸を使って日本酒の土台となる酒母(しゅぼ)を作る酒造りの製法」です。現存する酒造りの手法としてはもっとも伝統的なもので、一般的な製法と比べてかなりの手間がかかる工程を踏みます。

日本酒の発酵工程では、強い酵母を大量に育てることが必要です。この酵母を育てる工程を酒母造りといい、できあがった酒母が発酵のベースとなります。

酵母は比較的弱い菌ですが、他の微生物が苦手とする酸には強いという特徴があります。

そのため、酒母造りでは乳酸で酸性環境を作り、雑菌の繁殖を抑えて酵母だけを育てるのです。


速醸(そくじょう)造り・速醸酛(そくじょうもと)と呼ばれる現代における一般的な製法では、人工の乳酸を添加して酵母を育てますが、生酛造りでは乳酸菌を育て、乳酸菌が生成する自然の乳酸を使って酵母を作ります。


これには手間や時間、技術が必要で、速醸造りでは2週間で酒母ができるのに対し、一から乳酸菌を育てる生酛造りでは4週間ほどの作業期間がかかります。

 酒母作りを含む日本酒の造り方については、以下のページで詳しく解説しているのでこちらもご参照ください。


[日本酒の作り方]

生酛(きもと)造りの日本酒の特徴

速醸造りより手間も時間もかかる製法であるにもかかわらず、生酛造りが現代においても継承され続けているのには理由があります。


ここでは、生酛造りの日本酒の特徴や魅力について解説します。


味わい

生酛造りの日本酒は、乳製品のようなクリーミーな香りが最大の特徴です。生クリームやヨーグルト、チーズのような香りがするものもあります。


口当たりはまろやかで、味わいは旨味と酸味が強く、コクがあって芳醇です。生酛造りのお酒が持つ酸味は、通常の吟醸酒が持つシャープな酸味とは異なり、角のとれた穏やかさを感じます。後味のキレがいいので、濃醇な味わいでも飲み飽きしません。


冷酒で飲むのもよいですが、35〜40℃程度の燗酒にして飲むと、生酛造り独特の香りと味わいが際立つのでおすすめです。


そんな生酛造りのお酒に合わせたいおつまみはチーズ。また、グラタンやドリアなど乳製品を使った洋食や、乳酸発酵させた本場のキムチともよく合います。


香りが長く持つ

香りが長持ちしやすいというのも、生酛造りの日本酒の特徴です。


華やかな香りを持つ吟醸酒は、栓を開けてお酒を空気に触れさせた瞬間から、少しずつ香りが弱くなります。グラスに注いで飲んでいる間に、吟醸香を感じにくくなることもあるでしょう。これは、吟醸香が空気中に揮発しやすいという性質を持つからです。


生酛造りのお酒は、速醸系のお酒に比べ、香りを引き留める成分を多く含みます。そのため、揮発性の吟醸香も比較的長く保つことができるのです。


時間の経過による品質劣化が少ない

生酛造りの日本酒は、その酵母の性質から、時間による品質の劣化が比較的少ないお酒です。


生酛系の酵母は、速醸系の酵母に比べ生命力が強く、低温で長い時間をかけて発酵するのに向いています。生酛造りをはじめとする低温長期発酵のお酒は、その後の熟成スピードも遅いため、瓶に詰めた後も品質が劣化しにくいとされています。


さらに、生酛造りのお酒に含まれる多種多様な成分の中には、抗酸化物質も含まれるといわれており、酸化による劣化が緩やかなことも特徴です。


高級酒の部類に入る

高級酒というと、精米歩合の低い純米大吟醸酒が思い浮かぶかもしれません。希少な酒米を限界まで磨いたお酒は原料費が高く、高級酒の部類に入ります。


しかし、原材料が高額なお酒だけが高級酒ではありません。ごく一部の酒蔵だけが高度な技術を駆使し、時間と手間をかけて造っている生酛造りのお酒も、また高級酒なのです。


前述の通り、生酛造りのお酒は時間経過で劣化しにくいため、時間をかけて熟成させることによってさらに価値が上がります。


希少価値の高さ

現在では、ほとんどの酒蔵が速醸造りを採用しており、生酛造りのお酒は希少なものになっています。これは、生酛造りは時間や手間がかかり、さらに雑菌の侵入・繁殖による製造失敗を起こすリスクも高い製法だからです。


また、生酛造りと同じく天然の乳酸菌で酵母を作る製法には、山廃仕込み(やまはいじこみ)というものもあり、こちらも希少価値が高いお酒です。


現在市場に出回る速醸・山廃・生酛の割合は「90:9:1」といわれています。


山廃仕込みとの違い

山廃仕込みは、生酛造りから派生したお酒で、同様に乳酸菌を一から育てる方法で酒母を作る方法をとっています。しかし、生酛造りでは行われる、手作業で米をすりつぶす「山卸(やまおろし)」という工程を省略して作られるという違いがあります。


この山卸は非常に手間も時間もかかる工程であるため、これを省略できる山廃仕込みは、前述の通り生酛造りよりも多く造られ市場に出回っています。希少価値でいえば、生酛造りの方が高いといえるでしょう。


山廃仕込みは、生酛造りと同じく旨味と酸味が強く、コクのある味わいが特徴です。しかし、生酛造りに比べて若干味わいが穏やかな傾向にあります。


山廃仕込みについては、以下のページで詳しく解説しています。


[山廃仕込みの日本酒とは?]


生酛(きもと)造りのお酒を味わってみよう!

生酛造りの概要や特徴について、ご紹介しました。


すっきりと淡麗な味わいの速醸系日本酒を飲み慣れている人が、いきなり濃醇な純米生酛などを口にすると、その独特の香りや味わいに馴染みにくいかもしれません。最初は、純米吟醸生酛のような華やかさをあわせ持つお酒から試してみるとよいでしょう。


手間暇かけて造られる、希少な生酛造りのお酒を、ぜひこの機会に味わってみてはいかがでしょうか!

加藤里加子 icon_twitter
・唎酒師(ききさけし)
・国際唎酒師
・酒匠
・焼酎唎酒師
もともとはただの酒好きリケジョOLでしたが、日本酒好きが高じて、唎酒師やその上位資格の酒匠を取得しました。現在は、女性唎酒師限定コミュニティ「女唎酒師軍団」のメンバーとして日本酒の発展・普及のため微力を尽くしつつ、日本酒をめいっぱい楽しむ日常を送っています。私が愛してやまない日本酒を、多くの人にも好きになって欲しいという思いを込めて記事を書いています。

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